| articoli - columns - コラム |
| columns • photos • homepage |
| げんこつ橋からメッシーナ海峡へ 橋を渡ると、中ほどに大理石でかたどられた足跡があった。足跡にもかかわらず橋の名 が「げんこつ橋」であることを知ったときは奇妙な気がした。文献を見ると、この橋には おもしろい由来があることがわかった。13世紀以降、橋の上では殴り合いの試合が公式 に行われていた。当時、橋には欄干がなく、選手が運河に落とされることもあった。大衆 の人気を集めたが、危険を理由に18世紀初頭には禁止されることになった。大理石の足 跡は、試合直前に選手と審判員が位置につくための目印だったのである。 少なくともわたしにとって、歴史的な価値のあるものは、国宝や重要文化財であり、同 時に国や県の保護を受けるものでもあった。保護されているそれらを見たければ、お金を 払って寺院なり美術館にいかねばならない、というイメージがあった。イタリアにも保護 下に置かれた貴重なものは存在する。しかし、人々が生活する街全体が博物館なのだ。彼 らは歴史的な遺物と共生している、といってもいい。 ヴェネチアはアドリア海にできた潟の中に浮かぶ島で、大小の運河によっていくつもの 区画に分断されている。当然橋も多い。わずか7平方キロメートルの中に400以上の橋、 橋、橋。始終観光客の絶えない有名な橋を訪ねるのもいいが、ひっそりと忘れられたよう な橋を訪ね歩くのもおもしろいものである。それぞれに古いいわれがある。 ヴェネチアとイタリア本土を結ぶのがポンテ・デッラ・リベルタ(直訳すれば自由橋)。 現在イタリアで一番長い。ファシズムの時代にわずか21ヶ月で完成した、現代の橋であ る。完成当初は別の名前であったのが、10数年を経てイタリアがファシズムから開放さ れた日がたまたま橋の完成日と同じだったため、「自由」のつく名前に変更された、とい う皮肉な経緯がある。 メッシーナ海峡(シチリアとイタリア半島の間の海峡)架橋計画のニュースを聞いたのは この4月下旬だ。日米欧の民間企業数社が建設への参画に名乗りを挙げているというもの だったが、これに対するイタリア人の反応は冷ややかだ。過去何度も計画の話が出ては頓 挫しているので、もはや新鮮味もなにもないらしい。2ヶ月以内に建設企業を決めるとい う話だったのに、新聞やテレビのニュースを見る限り、現時点で新情報は何もない。やは り今度も計画は白紙になったのだろうか。もし日本企業によってこの歴史的事業が達成さ れたら、と思うと胸が高鳴る。架橋は2千年以上も前の古代ローマ人の夢であったのだ。 まだできてはいない橋だが、ここにも古い歴史がある。
小池 弘美
2001年xx月 |