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イタリアたべもの体験

 6年ほど前、東京の大手のス-パ-でモッツァレッラチ-ズを見かけた。これが料理雑誌でよく紹介されているイタリアのチ-ズの一種か、と妙に感動しつつ、購入した。パッケ-ジにイタリアの三色の国旗があしらってあったので、とっさにイタリアからの輸入品かと思ったのだが、実は大手メ-カ-の国産品だった。とはいえ、はじめてのモッツァレッラ体験。おいしかった。イタリアに住み始めたころ、ス-パ-(もちろんイタリアの)でモッツァレッラを買った。ビニ-ルパックに入っていて、工場で大量生産されているような商品だったが、日本のものより格段においしかった。これで充分に満足していた私だったが、友人のイタリア人が、工業製品のチ-ズを買うよりも、と、街のチ-ズ屋に連れて行ってくれた。彼は「モッツァレッラ・ディ・ブ-ファラ」を注文した。ブ-ファラというのはバッファロ-のこと、つまり水牛のモッツァレッラだ。ずっしりと水っぽくて重いそのかたまりを家に持ち帰り、さっそく食べてみる。これはもうなんといったらいいのか、身もだえするほどうまいのだった。

 日本にいたころ、アイスクリ-ムなら某H社のものが一番、と信じていた。かぜをひくと近くのコンビ二で買って食べた。ほんの小さなカップで250円はぜいたく品だった。元来が甘党ではないので、イタリアのアイスクリ-ム(イタリア語でジェラ-トという)を、特に食べたいとも思っていなかった。H社のアイスクリ-ムをいまだに信奉していた私を、友人が今度はジェラ-ト屋に連れて行った。脱帽した。H社はイタリアンジェラ-トの前に、完全にひれ伏してしまったのだった。以来、ジェラ-トを見るとついつい買って食べるという癖がついた。サン・マルコ広場そばの、おいしいと評判の店で、私はこの夏ほぼ毎日、ジェラ-トを買い続けた。太らなかったのが不思議だ。

 1週間ほどイタリアの市民病院に入院したことがある。同室だった女性の二人とも携帯電話をよく使っていたこと、患者の間を仕切るカ-テンがないことなど、困ったことは多少あったが、病院の食事には驚いた。ちゃんとプリモピアット(最初の皿)、セコンドピアット(第二の皿)という順番が守られ、それぞれス-プやパスタの中から、また肉や魚やチ-ズの中から好きなものを選べた。当然ながら塩分も油も少なめに使って調理してある。それでも素材がいいからだろう、充分においしいのだった。一皿一皿が陶の容器に盛られて配膳されるのもうれしかった。しかしイタリア人にとって病院食ははなはだ不満なものであるらしい。「レストラン並みの食事を病院で」というような病院食改善に関する記事を新聞で読んだことがある。イタリア人の「食」への情熱、これは並みではない。この情熱が別の分野に、たとえば、やる気をもって働く、とか、公共の場所では秩序を守る、などの方向に向かってくれれば、少なくとも私にはもう少し住みやすい国なのだけれど。

小池 弘美
2001年xx月